はじめに
「インプラント治療を検討しているけれど、骨の量が足りないと言われた…」
「上顎の奥歯のインプラントが難しいと診断された…」
「骨移植が必要と言われたけれど、手術が怖い…」
「治療期間が長すぎて仕事や生活に支障が出そう…」
このような悩みを抱えている方は少なくありません。実は、従来は「治療できない」と諦めざるを得なかったケースでも、新しい治療法で解決できる可能性があります。その画期的な治療法が「ザイゴマインプラント」です。
まるで、マンションの基礎工事で地盤が弱い場合に、より深く、より強固な支持杭を打ち込むように、ザイゴマインプラントは顔の中で最も硬い骨である頬骨にしっかりと固定される画期的な治療法なのです。
今回は、従来のインプラントとザイゴマインプラントの違いから、メリット・デメリットまで、具体例を交えながら詳しくご説明します。
目次
- ザイゴマインプラントとは
- 従来のインプラントとの違い
- ザイゴマインプラントのメリット
- ザイゴマインプラントのデメリット
- 適応症例と禁忌症例
- 費用と保険適用について
- まとめ
1. ザイゴマインプラントとは

ザイゴマインプラントは、頬骨(頰骨:きょうこつ)に直接インプラントを埋入する治療法です。頬骨は、私たちが笑顔を作るときにもっとも盛り上がる部分で、顔の骨の中でも特に強固な骨として知られています。
従来のインプラントを例えると、庭に植木を植えるようなイメージです。土(顎の骨)が少ないと、木(インプラント)をしっかりと支えることができません。その場合、通常は土を足す(骨移植)必要がありました。
一方、ザイゴマインプラントは、まるで高層ビルの建設で、表層の柔らかい地盤を超えて、深い位置にある固い岩盤まで支柱を打ち込むようなものです。頬骨という「天然の岩盤」を利用することで、顎の骨が少なくても強固な土台を得ることができるのです。
この治療法は、1990年代にスウェーデンのブローネマルク教授によって開発され、世界中で20年以上の実績があります。特に、上顎の骨量が著しく少ない方でも、大掛かりな骨移植をせずにインプラント治療を可能にする画期的な方法として高い評価を得ています。
🔍 再生歯科医コラム:
「頬骨は顔の中で最も硬い骨の一つです。
スポーツなどで顔面に強い衝撃を受けても、頬骨が簡単に折れることは稀です。
この強度は、咀嚼力にも十分耐えられる強さを持っています。
また、解剖学的に神経や血管の走行が少ない部位であるため、手術の安全性も高いと言えます」
2. 従来のインプラントとの違い
埋入部位と方法
- 従来のインプラント
- 顎の骨に垂直に埋入
- まるで地面に杭を打ち込むように、真っ直ぐ下向きに埋入します
- 骨量が少ない場合は、土台となる骨を造る必要があります
- ザイゴマインプラント
- 頬骨に斜めに埋入
- 高層ビルの斜め支柱のように、強固な頬骨にアンカーのように固定します
- 既存の骨を最大限活用するため、追加の骨造成が不要です
インプラントの長さと特徴
- 従来のインプラント
- 長さ:8~15mm程度
- 一般的な釘やネジのような大きさです
- 比較的シンプルな形状で、直線的です
- ザイゴマインプラント
- 長さ:30~50mm程度
- 大人の親指ほどの長さがあります
- 特殊な角度や形状で、頬骨にしっかりと固定できる設計です
必要な骨量と治療条件
- 従来のインプラント
- 十分な顎の骨量が必要
- 骨が少ない場合は骨移植が必要
- 骨移植から治療完了まで6ヶ月~1年以上かかることも
- ザイゴマインプラント
- 顎の骨量が少なくても施術可能
- 骨移植が不要
- 通常2~3ヶ月程度で治療完了
手術方法と技術的特徴
- 従来のインプラント
- 局所的な手術で済む
- 比較的シンプルな手術手順
- 多くの歯科医師が実施可能
- ザイゴマインプラント
- より広範囲の手術が必要
- 高度な3D診断と手術計画が必須
- 専門的な訓練を受けた医師のみが実施可能
3. ザイゴマインプラントのメリット
①骨移植が不要
最大の特徴は、骨移植が必要ないことです。これは、引っ越しで例えるなら、新しい家を建てる(骨移植)必要がなく、既存の頑丈な建物(頬骨)をそのまま活用できるようなものです。
そのため、以下のような利点があります
- 手術回数が少なくて済む
- 1回の手術で完了することが多い
- 入院の必要性も低い
- 術後の通院回数も少なくて済む
- 治療期間が大幅に短縮
- 骨移植が必要な場合の1年以上と比べ、2~3ヶ月程度
- 早期の社会復帰が可能
- 仮歯の装着も速やか
- 身体的負担が軽減
- 骨移植手術の痛みや腫れを回避
- 術後の不快感も最小限
- 回復期間も短い
②即時荷重が可能
多くの場合、手術当日か数日以内に仮歯を装着できます。これは、新築の家で例えるなら、基礎工事が終わったその日から住めるようなものです。
具体的なメリットとして
- すぐに見た目が改善
- 手術直後から審美性が回復
- 笑顔に自信が持てる
- 人付き合いの不安が解消
- 早期から噛む機能が回復
- 柔らかい食事なら術直後から可能
- 段階的に硬いものも咀嚼可能
- 栄養摂取の改善
- 社会生活への影響を最小限に
- 長期の欠勤が不要
- 人前での会話も自然に
- 日常生活のリズムを保持
③確実な固定が可能
頬骨は顎の骨より硬く、大きいため、まるで超高層ビルの基礎のように強固な土台となります。
この特徴により
- 強固な固定が可能
- 通常の咀嚼力に十分耐えられる
- 長期的な安定性が期待できる
- がたつきのリスクが低い
- 長期的な安定性
- 10年以上の長期症例も多数報告
- メンテナンスも比較的容易
- 骨吸収のリスクが低い
- 高い成功率
- 世界的な統計で95%以上の成功率
- 従来の方法より予知性が高い
- 合併症の発生率も低い
💡 ポイント
通常のインプラントでは「骨が足りない」「治療期間が長い」といった理由で諦めていた方でも、ザイゴマインプラントなら治療できる可能性が高いのです。まさに、インプラント治療における“打てる手”が大きく広がったと言えるでしょう。
4. ザイゴマインプラントのデメリット
①高度な技術が必要
ザイゴマインプラントは、まるでF1レースのような高度な技術と専門知識が必要な治療です。普通の自動車運転とF1では、必要なスキルが全く異なるように、通常のインプラントとは比較にならない専門性が求められます。
具体的には
- 実施できる医師が限られる
- 専門的なトレーニングが必須
- 豊富な経験が必要
- 定期的なスキルアップデートが必要
- 手術時間が長くなる可能性
- 通常2~3時間程度必要
- 全身麻酔や鎮静法が推奨される
- より綿密な術前準備が必要
- 施術可能な医療機関が少ない
- 専門機器の導入が必要
- 高度な技術スタッフが必要
- 地域によっては選択肢が限られる
②費用が高額
従来のインプラントと比べて、まるで普通車と高級車の価格差のように、費用面での違いが大きくなります。
具体的な課題として
- 治療費が高額
- 専門的な技術への対価
- 特殊な機器使用料
- 入念な術前検査費用
- 保険適用外
- 全額自己負担
- 医療費控除の対象
- デンタルローンなどの分割払いの検討が必要
- 医院による費用差
- 地域による価格差
- 術者の経験による違い
- 情勢による使用材料の価格変動リスク
③合併症のリスク
手術の特性上、以下のようなリスクがあります。例えるなら、高層ビル建設でも地盤調査や周辺環境への配慮が必要なように、細心の注意と適切な対策が求められます
- 上顎洞炎のリスク
- 症状:鼻づまり、違和感
- 予防:適切な術前検査
- 対策:定期的な経過観察
- 頬部の腫れや違和感
- 術後1~2週間程度持続
- 個人差が大きい
- 適切なケアが重要
- 術後の痺れや痛み
- 一時的な症状がほとんど
- 適切な投薬管理
- 経過観察が最も重要
5. 適応症例と禁忌症例
適応症例
まるで、様々な地盤問題を解決できる高度な基礎工事技術のように、以下のような方に特に効果を発揮します
- 上顎の骨量が著しく少ない方
- 長期の歯牙欠損による骨吸収
- 先天的に骨量が少ない
- 事故や手術による骨欠損
- 骨移植を避けたい方
- 全身疾患で負担軽減が必要
- 手術回数を最小限にしたい
- 治療期間の短縮を希望
- 早期の治療完了を希望する方
- 仕事の都合で長期治療が困難
- 社会的な理由で早期回復が必要
- 審美性の早期回復を希望
- 全顎的な治療が必要な方
- 多数歯欠損
- 総入れ歯からの移行
- 咬合再構成が必要
禁忌症例
一方で、以下のような方には慎重な検討が必要です。これは、地盤調査で重大な問題が見つかった場合に建築を見送るのと同じような考え方です
- 重度の歯周病がある方
- 活動性の炎症がある
- 歯周組織の著しい破壊
- 口腔衛生状態が不良
- 顎関節症がある方
- 重度の開口障害
- 顎関節の痛み
- 咬合異常
- 骨粗しょう症の方
- 骨密度が著しく低下
- 骨折リスクが高い
- 骨代謝に影響する薬剤使用中
- 糖尿病のコントロールが不良な方
- HbA1cが7.0以上
- 感染リスクが高い
- 創傷治癒が遅延する可能性
- その他の注意が必要なケース
- 重度の喫煙習慣がある方
- 心臓病や高血圧などの基礎疾患がある方
- 過度のブラキシズム(歯ぎしり)がある方
6. 費用と保険適用について
ザイゴマインプラントは保険適用外の治療です。例えるなら、高級外車を購入するようなもので、高額な初期投資が必要になりますが、その価値に見合う機能と快適さを得ることができます。
標準的な費用の内訳
基本費用
- 1本あたり:80~150万円程度
- インプラント体:30~50万円
- 手術料:30~50万円
- 上部構造(人工の歯):20~50万円
全顎治療の場合
- 上顎全体(4本使用):300~500万円程度
- インプラント体(4本):120~200万円
- 手術料:100~150万円
- 上部構造:80~150万円
付随する費用
- 術前検査費用
- CT撮影:2~5万円
- 血液検査:1~2万円
- 診断料:2~3万円
- その他の費用
- 麻酔料:5~10万円
- 入院費用(必要な場合):3~5万円/日
- 投薬費用:1~2万円
支払方法の選択肢
- 一括払い
- まとまった支払いで総額を抑える
- 医院によっては割引制度あり
- 分割払い
- 医療デンタルローン(最長8〜10年)
- クレジットカード払い
- 院内分割制度
❗ 重要:
費用は医院によって大きく異なります。
また、治療内容や患者さんの状態によっても変動することがあります。
詳細な費用については、必ず事前のカウンセリングでご確認ください。
医療費控除の対象となるため、確定申告で一部が還付される可能性があります。
また、医療ローンや分割払いに対応している医院も多いので、気になる方は相談してみましょう。
7. まとめ
ザイゴマインプラントは、従来は「治療できない」と諦めざるを得なかった方にも希望をもたらす画期的な治療法です。まるで、これまでの建築技術では建てられなかった場所にも建物を建てられるようになった、革新的な工法のようなものです。
しかし、すべての方に適している訳ではありません。適切な治療を受けるためには、以下の点を必ずご確認ください
治療前の確認事項
1.担当医の経験と実績
- 症例数
- 認定資格
- 継続的な研修実績
2.詳細な治療計画
- 術前診断の内容
- 治療期間の見込み
- 代替治療の可能性
3.起こりうる合併症
- 具体的なリスク
- 対処方法
- 予防策
4.総治療費用
- 詳細な見積もり
- 追加費用の可能性
- 支払い方法の選択肢
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ザイゴマインプラント治療
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【参考文献】
- 日本口腔インプラント学会ガイドライン(2023年版)
- International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, 2022
- Journal of Oral Implantology, 2023
- European Journal of Oral Implantology, 2023
- Clinical Oral Implants Research, 2022
- Zygoma Implants The Anatomy-Guided Approach 2023
最終更新日:2024年10月31日
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